国際海事機関(IMO)は、海洋での二酸化炭素除去3技術の研究について評価枠組みを採択し、研究を超える活動はまだ検討できないとしています。IMOは2026年10月9日、ロンドン条約とロンドン議定書の締約国が決議を採択したと発表しました。決議は、海洋肥沃化、海洋アルカリ度向上、海洋へのバイオマス沈降について、それぞれ評価枠組みを定めています。各国政府はこの枠組みを使い、提案が「正当な科学的調査」に当たるか、許容できないリスクなしに実施できるかをケースごとに判断します。業界メディアのCarbon Pulseは、海洋由来のCDRクレジット市場に影響しうるとの見方を伝えています。

まず押さえておきたい用語

  • 国際海事機関(IMO):海運と海洋汚染に関する条約を所管する国連の専門機関で、本部はロンドンにあります。ロンドン条約とロンドン議定書もIMOが所管しています。

  • ロンドン条約・ロンドン議定書:廃棄物その他の物の海洋投棄を規制する国際条約です。条約は1972年に採択されました。議定書は1996年に採択されて2006年に発効し、条約を強化し、最終的に置き換えることを目指しています。

  • 海洋二酸化炭素除去(海洋CDR):海洋を使って大気中の二酸化炭素を吸収したり、炭素を長期間貯留したりする手法です。IMOはこれを「海洋ジオエンジニアリング」と呼び、海洋生態系への影響はまだ十分に解明されていないとしています。

  • 海洋肥沃化:海水に栄養塩を加えて植物プランクトンの増殖を促し、大気中の二酸化炭素を吸収させる手法です。

  • 海洋アルカリ度向上(OAE):海水にアルカリ性物質を加え、大気中の二酸化炭素を吸収する海洋の能力を高めるとともに、海洋酸性化を打ち消す手法です。

  • 海洋へのバイオマス沈降:海洋植物や陸上植物などの生物由来の物質を意図的に海に入れ、炭素を貯留する手法です。

締約国は決議を採択し、3技術それぞれに評価枠組みを設けました

決議は、2026年10月5日から9日に開かれた締約国会議で採択されました。会議の正式名称は、ロンドン条約第48回締約国協議会議・ロンドン議定書第21回締約国会議(LC 48/LP 21)です。ロンドンのIMO本部で開かれ、南アフリカのRadia Razack氏が議長を務めました。国際環境法センター(CIEL)のプレスリリースによると、決議は10月9日(金)に採択されました。

IMOのArsenio Dominguez事務局長は、この枠組みが厳格で透明な評価手段になると述べました。同氏は、海洋ジオエンジニアリングへの科学的、商業的、社会的な関心が高まるなかで、枠組みが規制当局と研究者による提案の評価と海洋環境の保護に役立つとしています。

海洋肥沃化の枠組みは旧版の改訂で、ほかの2つは新しい枠組みです。米コロンビア大学サビン気候変動法センター(Sabin Center)の会議前分析によると、締約国は2008年、正当な科学的調査以外の海洋肥沃化を認めるべきではないとする拘束力のない決定を採択しました。2010年には海洋肥沃化の評価枠組みも採択しています。同センターは、締約国が2023年に、海洋アルカリ度向上とバイオマス沈降を海洋肥沃化と同様に扱うべきだと表明したとも説明しています。つまり、一部の正当な科学的調査は認められうる一方、実際の展開は先送りすべきだという立場です。

新たな枠組みの対象となる海洋CDR 3手法:海洋肥沃化、海洋アルカリ度向上、バイオマス海洋沈降(作図:Island Frequency)
新たな枠組みの対象となる海洋CDR 3手法:海洋肥沃化、海洋アルカリ度向上、バイオマス海洋沈降(作図:Island Frequency)

評価は初期スクリーニングから事後レビューまで

各枠組みは、初期スクリーニング、環境評価、リスク管理、意思決定、事後レビューの5段階で構成されています。IMOによると、新しい情報が得られた場合は評価を見直すことができます。

IMOは、すべての提案に共通の基本要件を課すとしています。提案は、正当な科学的目的を示し、環境リスクを十分に評価しなければなりません。利害関係者との協議とピアレビュー、厳格なモニタリングと透明な報告も求められます。

CIELは、3つの枠組み文書すべてが先住民族との協議を求めていると指摘しています。CIELによると、文書は国際法に基づく先住民族との協議と、これらの技術の社会的、文化的、経済的影響の考慮を各国に求めています。

ロンドン議定書における海洋CDRプロジェクトの審査の流れ(作図:Island Frequency)
ロンドン議定書における海洋CDRプロジェクトの審査の流れ(作図:Island Frequency)

研究を超える活動はまだ検討できないとIMOは説明しています

IMOは、研究段階を超える活動を検討する前に、さらなる科学的研究が必要だとしています。締約国は、科学的知見はまだ限られており、研究は慎重に進め、環境保護を最優先にすべきだと強調しました。

クレジット:影響を指摘する声がありますが、詳細は決議本文の確認が必要です

Carbon Pulseは、この指針が海洋由来のCDRクレジット市場に影響しうるとの見方を伝えています。Carbon Pulseの記事は有料のため、本記事では公開されているリード部分のみを引用しています。

環境NGOのCIELは、炭素クレジットを生み出す、または販売するプロジェクトや実験は正当な科学的調査に当たらないと解釈しています。CIELによると、3つの枠組みには、経済的利益が研究の設計、実施、結果に影響しないようにする基準が含まれています。これはCIELの解釈であり、IMOのプレスリリースは炭素クレジットに触れていません。

会議前に公開された草案では、一部の支払いは経済的利益の制限の対象外とされていました。Sabin Centerによると、海洋肥沃化の改訂枠組み草案は「財務的および/または経済的利益」を制限する一方、この制限は実験を支えるサービスへの支払いや、特許技術による将来の財務的影響を妨げるものではないとしています。同センターは、海洋アルカリ度向上とバイオマス沈降の草案にも同じ文言があると説明しています。また、会議前には複数の締約国が炭素クレジットの販売や事前販売は認められないと主張していましたが、この論点は当時まだ決着していなかったとしています。

法的位置づけ:枠組みの拘束力について、会議前には見解が分かれていました

海洋ジオエンジニアリングに関するロンドン議定書の拘束力のある規定は、まだ発効していません。議定書の締約国は2013年、海洋ジオエンジニアリングについて拘束力のある規制を定める改正を採択しました。CIELによると、この改正は議定書締約国の3分の2が批准した時点で発効します。Sabin Centerによると、改正で対象として掲げられている活動は、今のところ海洋肥沃化だけです。

会議前の作業部会報告によると、多くの代表団は評価枠組みをベストプラクティスの指針と位置づけています。Sabin Centerは、2026年7月の海洋ジオエンジニアリングに関する法的会期間通信部会(LICG)の報告を引用しています。報告によると、枠組みは新たな法的拘束力のある義務を生まないと強調した代表団もあり、各国が国内の許可手続きで裁量を持つことも確認されました。

同じ会議でのほかの決定

締約国は、繊維強化プラスチック(FRP)船の廃船管理に関する指針も承認しました。IMOによると、この指針は国連環境計画(UNEP)と協力して作成され、海洋投棄に代わる方法も扱っています。締約国はまた、ロンドン条約・議定書と「国家管轄権外区域の海洋生物多様性に関する協定」(BBNJ協定)との関係について、会期間に検討することでも合意しました。

まだ確定していないこと

  • 決議の全文:IMOのプレスリリースには決議の全文と番号が掲載されていません。経済的利益や支払いに関する条項を含め、最終的な文言が会議前の草案と同じかどうかは、本サイトではまだ確認できていません。

  • 枠組みの法的位置づけ:最終決議が枠組みの効力をどう表現しているか、各国が国内の許可手続きにどう取り入れるかについて、まだ公開情報はありません。

  • クレジット市場への実際の影響:現時点では観察者と環境NGOの見方があるだけで、クレジット基準機関や購入者からの公式な反応はまだありません。

台湾にとっての意味

今回の枠組みが対象とするのは海洋CDRの研究であり、CCSの海底下地層貯留ではありません。IMOによると、ロンドン議定書は2006年に附属書1が改正され、二酸化炭素を海底下の地層に恒久的に貯留するための法的根拠が設けられました。2009年には第6条が改正され、この目的での二酸化炭素の輸出が認められました。2019年には、この輸出改正の暫定適用を認める決議が採択されています。

台湾はこれらの国際海洋条約に正式には参加していませんが、国内法で海洋投棄に許可制度を設けています。学術誌『Laws』の2025年の論文は、台湾は特殊な国際的地位のため関連する国際海洋条約に正式に参加できず、国内法で自主的に整合を図っていると指摘しています。台湾の「海洋汚染防治法」第23条は、海洋投棄を行う者に、中央主管機関である台湾海洋委員会の許可を得るよう定めています。

台湾にはCCSの貯留を対象とする専用の管理規則がすでにあります。台湾環境部は2026年8月25日に「二酸化炭素回収後貯留管理弁法」を公布しました。中央通訊社(CNA)は、この弁法が坑井の閉鎖後20年間のモニタリングを義務づけていると報じています。

本サイトの見方

以下は本サイトの読み方であり、IMOやロンドン条約・ロンドン議定書の締約国の公式見解ではありません。

  • 2種類の「海洋での炭素対策」を区別することが大切です。ロンドン議定書の下では、海底下貯留と海洋CDRは別の規制の流れにあります。国際報道を読むときは、どちらの話かをまず確認するとよいと考えます。今回の研究に関する制限を、台湾の沖合貯留計画にそのまま当てはめるべきではないと考えます。

  • クレジットの購入者は、もう一歩踏み込んで確認するとよいでしょう。海洋CDR関連のクレジットを検討する企業は、そのプロジェクトが研究なのか展開なのか、どの国の許可を得ているのか、除去量をどうモニタリングしているのかを確認できます。決議全文が公開されるまでは、CIELの解釈と草案の文言の間に差が残っています。

  • 国内法の適用はまだ明確ではありません。今後、台湾の海域で海洋アルカリ度向上やバイオマス沈降の試験が提案された場合、それが「海洋汚染防治法」上の海洋投棄に当たるのか、どの機関が審査するのかは明らかではありません。主管機関が事前に説明しておく価値がある論点だと考えます。

  • 関連記事:世界のCCSの進展については「CCSの世界年次報告書『Global Status of CCS 2026』、10月20日に公表へ」もあわせてご覧ください。報告書の公表後は、政策・規制・炭素市場に関する整理が参考になると考えます。

出典

  • IMOプレスリリース、IMO adopts frameworks to assess marine geoengineering research activities(2026年10月9日):imo.org

  • Carbon Pulse、IMO adopts new guidance on certain marine carbon removal techniques(2026年10月9日、有料、公開リードのみ引用):carbon-pulse.com/559288

  • CIELプレスリリース、Global Treaty Advances Precautionary Regime on Marine Geoengineering(2026年10月9日):ciel.org

  • コロンビア大学サビン気候変動法センター、Parties to the London Convention and Protocol Debate Marine Carbon Dioxide Removal Governance(2026年10月7日、会議前分析):blogs.law.columbia.edu

  • LC 48/5/1、Draft revised Ocean Alkalinity Enhancement Assessment Framework(会議文書、2026年、会議前):PDF

  • IMO、Carbon Capture and Sequestration(解説ページ、日付の記載なし):imo.org

  • IMO、Resolution LP.5(14)(2019年10月11日):PDF

  • 台湾法規データベース(全國法規資料庫)、海洋汚染防治法(最終改正2023年5月31日):law.moj.gov.tw

  • 『Laws』(MDPI)、Enhancing Marine Environmental Protection Enforcement in Taiwan(2025年):mdpi.com

  • 中央通訊社、碳封存管理辦法公告 封井後須監測20年[炭素貯留管理弁法を公布、坑井閉鎖後20年の監視を義務化](2026年8月25日):cna.com.tw

本記事の手がかり:Carbon Pulse(2026年10月9日)。抜粋による要約です。全文と適用上の制限は原文をご確認ください。