米国の非営利研究機関アレン人工知能研究所(Ai2)は2026年10月22日、衛星埋め込みモデル「OlmoEarth v1.3」を公開しました。今回公開されたのはOlmoEarth v1.3 Baseモデル、事前計算済みの全球年次埋め込みデータ、ログイン不要のブラウザツール「OlmoEarth Embeddings Explorer」の三つです。モデルの重み、事前学習データ、コードはすべて公開され、OlmoEarth Artifact Licenseが適用されます。

衛星埋め込みとは

衛星は数日ごとに同じ場所を撮影し、1年で大量の画像がたまります。ある土地が水田か森林か鉱山かを判断するには、これまでタスクごとにモデルを学習させ、大量の画像をダウンロード・保存し、GPUで計算するのが一般的でした。

一枚の衛星画像に写る多様な土地被覆
一枚の衛星画像に写る多様な土地被覆(AI生成イメージ)

埋め込み(embedding)は、まず大規模なモデルが画像を「読み込み」、各地点の1年分の特徴を数字の列に圧縮する方法です。OlmoEarth v1.3は1年分のSentinel-1レーダー画像とSentinel-2・Landsatのマルチスペクトル画像を読み込み、地球上の10メートル四方のピクセルごとに128個の数字からなるベクトルを出力します。最初の64個だけでも小さな版として使えます。構造は、ビジョントランスフォーマーが衛星データを読み、Attention Poolerが土地の区画ごとに一つのベクトルにまとめ、線形層で128個の数字に圧縮するというものです。

このベクトルは、その土地の「特徴の要約」と考えることができます。地表の状態が似た場所はベクトルも近く、同じ場所のベクトルが年によって大きく違えば、地表が変化したことを示します。全球の埋め込みが用意されていれば、作物図や土地被覆図、変化の分析は、その上に小さな分類器を学習させて手元のパソコンで動かす軽い作業になります。

データの範囲と評価結果

埋め込みデータはSource Cooperativeで公開され、解像度は10メートル、1年あたり約150TBで、陸地と隣接する沿岸水域をカバーしています。公開時点では2023年、2024年、2025年が全球、2017〜2022年は一部の国のみです。20キロメートルのタイルと年ごとに出典表があり、モデルが読み込んだSentinel-1、Sentinel-2、Landsatの画像が記載されているため、どのピクセルも元の画像までたどれます。

衛星データの大規模処理
衛星データの大規模処理(AI生成イメージ)

Ai2はOlmoEarth v1.3を、Google DeepMindのAlphaEarth FoundationsおよびTessera v2と、6大陸にわたる27項目の評価で比較しました。128次元版は20項目で最高点、64次元版は18項目で首位でした。熱帯の作物分類の新しいベンチマーク「PLANTEUR」も提案しています。学習コストは、計算時間がv1.2の53%、v1の18%、炭素排出量がそれぞれ50%と22%でした。Ai2は、Baseモデルの最終的な事前学習を再現するのに必要なH100のレンタル費用を約2,720米ドルと見積もっています。

Ai2が挙げる活用例には、ケニアの小規模農家の作物分類、ダッカ西部のれんが窯の検出、インドネシアの火災被害の評価、ペルーのアマゾンでの金採掘の追跡があります。

埋め込みで土地の変化を見る:ペルーの金採掘地域

ペルーのマドレ・デ・ディオス州ラ・パンパ周辺では、違法な金採掘が2017〜2018年にピークを迎えました。アマゾン保全団体のモニタリング計画MAAPによると、タンボパタ国立保護区の緩衝地帯で1,200ヘクタールを超える森林が失われました。2019年2月、ペルー政府の「メルクリオ作戦」で採掘の大部分が停止されました。

アマゾン熱帯雨林の採掘による地表の変化
アマゾン熱帯雨林の採掘による地表の変化(AI生成イメージ)

Ai2は各ピクセルのベクトルを年ごとに比較しており、モデルの学習は必要ありません。2017〜2020年の比較では採掘が南東へ広がった様子が見え、2020〜2025年の比較では南東部が落ち着き、変化は西側の古い採掘地域に移っています。その一部は植生の回復、一部は採掘の再開です。AP通信は2026年8月、検察が採掘の保護区内への侵入を確認したことを受け、ペルーが海軍の巡回を再び送ったと報じました。

Embeddings Explorerは埋め込みを全球のフォールスカラー地図として表示します。年を切り替えて変化を見たり、Sentinel-2画像を呼び出して実景と照合したり、ある場所をクリックして似た場所を探したり、いくつかの点にラベルを付けてその場で小さな分類器を学習させ、結果をGeoTIFFで書き出したりでき、GPUは必要ありません。

森林吸収源のモニタリングへの使い方

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の国家温室効果ガスインベントリ・ガイドラインでは、土地部門の排出・吸収は基本的に「活動量」に「係数」を掛けて推計します。活動量は土地の種類ごとの面積とその変化、たとえば森林が鉱山や農地に変わった面積で、係数は1ヘクタールあたりの炭素量の変化です。

森林調査区での炭素吸収モニタリング
森林調査区での炭素吸収モニタリング(AI生成イメージ)

埋め込みデータが役立つのは活動量の側です。少数のラベル付き地点で分類器を学習させれば、森林の範囲を年ごとに地図化でき、年を比べることで森林が減った場所や回復した場所と面積が分かります。1ヘクタールあたりの炭素量は現地の調査プロットなど別のデータで推計する必要があり、埋め込み自体に炭素量の数値は含まれていません。また、2017〜2022年の埋め込みは一部の国のみなので、長期比較の前に対象地域にデータがあるか確認が必要です。

同じ種類の分析は市販のGISソフトにも入り始めています。Esriが2026年5月に公開したArcGIS Pro 3.7では、GeoAIツールボックスに「Embeddings Based Analysis」ツールセットが加わり、Generate Embeddings Using AI Models、Find Similar Features Using Embeddings、Merge Embeddings、Extract Embeddings To Fieldsなどで類似地点の検索ができます。

臺灣が参考にできる方向

  • まずExplorerで臺灣の地表変化を見る:2023〜2025年は全球データなので、山地の開発や太陽光発電所の用地など、臺灣のここ3年の土地の変化を直接確認し、詳しい分析が必要か判断できます。
  • 既存の調査データと組み合わせる:国土利用現況調査や森林資源調査などの既存データを分類器の学習ラベルとして使い、埋め込みで全域・年ごとの比較に広げることができます。
  • 炭素クレジット案件のモニタリングと検証に使う:森林系の炭素クレジット案件では森林範囲の定期的な確認が必要です。埋め込みと出典表は、たどることのできる衛星の証拠になります。当サイトの「デジタルMRVで炭素クレジットの引き渡しは速くなるか、買い手が確認すべきデータ・検証・責任」も参考になります。
  • ライセンスを確認する:データはOlmoEarth Artifact Licenseで公開されているため、商用サービスに使う前に条件を確認する必要があります。

出典