2026年10月上旬、雪霸国家公園管理処(以下、雪管処)の調査隊が臺中市和平区の環山集落を出発した。まず志佳陽大山の登山道を3.1キロ歩き、そこから川に入って上流へ5.5キロさかのぼった。片道6時間以上かけて、大甲渓上流の支流・司界蘭渓にたどり着いた。
隊員はウェットスーツを着て冷たい川に身を沈め、魚を1匹ずつ数えた。長さ600メートルの区間で数えたタイワンマスは117匹で、目視での生存率は48.75%だった。この魚たちは、2025年9月にヘリコプターで山へ運んだ240匹の幼魚で、当時は生後約10か月だった。雪管処は実際の生存率を5割超と見ている。求愛行動も確認され、11月には川で自然産卵すると見込んでいる。

タイワンマス(臺灣桜花鉤吻鮭)は、氷河期に臺灣の高山の渓流に取り残されたサケの仲間だ。一生を淡水で過ごし、海へは下らない。冷たい水、きれいな礫の川床、深い淵が欠かせない。司界蘭渓の朗報の裏には、30年にわたる調査、ダム撤去、植樹、モデル計算がある。どの段階でも、魚と水温と河道を同じ地図に載せる作業が必要だった。

タイワンマスは200匹余りから約1万6000匹に増えた
雪管処によると、1995年の野生のタイワンマスは200匹余りで、分布は七家湾渓の流域だけだった。2022年には約1万5000匹まで回復した。
雪管処は毎年6月から10月に、シュノーケリングによる目視で個体数を調べている。調査員は決まった区間を上流へ進み、見えた魚とその大きさを記録する。区間の位置は毎年同じなので、各年の数字を地図上に重ねて比べられる。どの区間がにぎやかになり、どの区間が静かになったかが見えてくる。

2023年の調査では1万8630匹を数え、過去最多となった。2024年は1万6897匹で、七家湾渓流域が8684匹、合歓渓流域が7300匹だった。2025年の調査では約1万6020匹で過去3番目に多く、この5年は1万5000匹前後を保っている。
生息域も1本の川から複数の川へ広がった。七家湾渓、合歓渓、南湖渓、羅葉尾渓ではすでに復元が成功し、人工放流に頼らなくなった。司界蘭渓は最も新しい目的地だ。
七家湾渓1号ダムは2011年に撤去された
1971年から、七家湾渓の流域には大型の砂防ダムが12基造られた。砂防ダムは土砂を止めるが、川を細切れにもする。魚は上流へ上れない。ダムの手前は水が浅く温かくなり、礫も下流へ届かなくなる。
雪管処は1999年から2000年にかけて、まず高山渓の4基のダムを水と土砂が通れる形に改良した。経済部水利署の電子報によると、改良後にそこでサケが自然産卵した。
七家湾渓1号ダムは1972年の建設で、高さ13メートル、背後に約20万立方メートルの土砂がたまっていた。2011年5月25日に撤去工事が始まり、6月1日に完了した。臺灣で初めて撤去された砂防ダムだ。工事の前に、職員が100匹以上のサケを種苗保存施設へ移した。工事中は3キロの区間にカメラ、濁度計、水位計を設置した。下流の濁度は最高178 NTU(濁度単位)に達したが、数時間で落ち着いた。

王筱雯氏らは2013年の『中華水土保持学報』で、水文、地形、画像のデータを組み合わせ、撤去後1年半の河道の変化を追った。ダム上流の主流路は数分で動き始め、1〜2年かけて川幅の拡大と河床の低下が続いた。研究チームはこの変化を河道変遷モデルにまとめ、長期モニタリングに役立てている。
司界蘭渓の転機もダムと関係がある。約10年前、下流の砂防ダムが洪水で壊れた。その後の洗掘で、深い淵と産卵に適した川底が再びできた。以前の司界蘭渓への放流は実を結ばなかったが、いまは河道の条件が変わっている。
木陰と地下水が川の水を冷たく保つ
タイワンマスは暑さに弱い。明志科技大学の胡璨陽氏と官文惠氏は『国家公園学報』2024年第34巻第1号で、武陵地区の2019〜2023年の水質モニタリングを分析した。両岸の植生を増やして日陰をつくり、水温を17℃未満に保つよう提案している。七家湾渓上流の右岸では2006年に8.1ヘクタールの農地を回収し、川の栄養塩濃度が下がったことも紹介している。
どこに木を植えるかは、先にコンピューターで計算できる。国立臺灣大学、中央研究院、雪管処などの研究者は2012年に『Hydrological Processes』誌で、河川水温モデルを使って七家湾渓の植樹案を比べた。日陰の角度が50度を超えると効果がはっきり表れ、上流で70度の日陰が最も効果的だった。上流の日陰の角度が90度に達すると、夏にサケが暮らせる区間が1キロ以上延びる。西岸への植樹は2番目に効果が高かった。午後の日差しが西から当たるためだ。
ドローンも計測に加わっている。国立臺灣海洋大学、国立臺灣師範大学、国立臺灣大学のチームは、2020年の欧州地球科学連合(European Geosciences Union、EGU)総会で、七家湾渓の源流の小川に関する要旨を発表した。川沿いに光ファイバー分布型温度センシング(Distributed Temperature Sensing、DTS)を敷いて細かい区間ごとの水温を測った。さらに電気比抵抗トモグラフィー(Electrical Resistivity Tomography、ERT)で川床の下の水の動きを調べ、ドローンの空撮画像も加えて河川の熱収支モデルを作った。その結果、地下水と川床の下を流れる伏流水が夏に冷たい水を補い、下流の水温を下げていることがわかった。

新しい生息地は元の川より産卵に適していた
放流の前に、研究者は新しい川が適しているかを評価する。2025年5月、中央研究院生物多様性研究センター、米国コロンビア大学、雪管処武陵管理ステーションの研究者が『Journal of Applied Ecology』誌に論文を発表した。資金は雪管処の委託研究から出ている。チームは元の生息地である七家湾渓と、放流先の合歓渓で産卵床を比べた。合歓渓には2017年、2018年、2019年にそれぞれ900匹、3000匹、2400匹の幼魚が放流された。
産卵床の密度は流速が速いほど高く、電気伝導度と水温が上がるほど低かった。合歓渓の生息適性は七家湾渓より高く、放流されたサケはより良い産卵場所を見つけていた。卵がうまくふ化する条件の範囲は、親魚が産卵床に選ぶ範囲より49.5%狭いこともわかった。産卵場を守るには、ふ化に必要な条件に特に気を配る必要がある。
司界蘭渓はまだ観察期間中だ。国立中興大学の林幸助教授は公共テレビの取材に、少なくとも1世代、つまり3年以上観察しないと個体群が安定したとは言えないと話した。雪管処は年末に通年の調査データを公表する予定だ。

臺灣が参考にできる方向
- 毎年のシュノーケリング調査の数、水温、産卵床の位置をまとめて公開の空間データセットにすれば、研究者や学生が30年の変化を地図で比べられる。
- 地形データと日陰のシミュレーションで河岸植樹の優先区間を順位づけし、限られた人手を冷却効果の高い場所から投入する。
- 山地の既存の砂防ダムを洗い出し、土砂移動のシミュレーションと組み合わせて、魚と礫が通れる形に改良できるダムを見極める。
- 台風や大雨の後は、ドローンのオルソ画像で淵や礫州の位置を記録し、生息地の変化を素早くつかむ。
- 雪管処は2026年に「国宝魚生態体験教室」の建設を始める計画だ。双方向の地図を組み合わせれば、サケが川から川へ広がった過程を来館者に見せられる。
GIS研究に使える手法とデータ
- 雪霸国家公園管理処の生態調査データベース(中国語)には、七家湾渓の長期生態モニタリングの成果、衛星地図、水質と気象の生データが収められている。
- 内政部の20メートル格子の数値地形モデルで、傾斜、集水域、河道の縦断面、方位ごとの地形の日陰を計算できる。
- 経済部水利署の河川支流の線データと河川コードを使えば、調査区間を正式な水系コードに対応づけられる。
- 内政部国土測絵センターのWMTSタイルサービスは、オルソ画像と汎用電子地図の背景図を提供している。同センターは1/1000地形図と3次元メッシュモデルの提供も始めた。
- 農業部生物多様性研究所が構築した台湾生物多様性ネットワーク(Taiwan Biodiversity Network、TBN)と、地球規模生物多様性情報機構(Global Biodiversity Information Facility、GBIF)の種のページから、座標付きの出現記録を入手できる。
- 集水域全体の地表の変化には、OlmoEarthの10メートル衛星埋め込みデータで植生や崩壊地を比べられる。
- 手法としては、上で紹介した研究の光ファイバー水温計測と熱収支モデル、ダム撤去後の河道変遷モデル、産卵床の位置から作る生態的ニッチモデルが参考になる。

コメントを書く
コメントは承認後に公開されます。メールアドレスは非公開で、必要な連絡にのみ使用します。 プライバシーについて