2026年6月24日、ベネズエラ北部で数秒のうちに2回の地震が続けて起きた。まずマグニチュード7.2の前震、続いてマグニチュード7.5の本震で、震源は首都カラカスの西約160キロだった。救援団体が最初に知りたかったのは、被災地に建物が何棟あり、どこにあり、どれが壊れたかという具体的なことだった。

ヒューマニタリアン・オープンストリートマップ・チーム(Humanitarian OpenStreetMap Team、HOT)は24時間以内に、AI支援の地図作成ツールfAIrで建物密度、AIが描いた建物輪郭、建物被害の予測を提供した。これらのレイヤーは被災後のVantor衛星画像から作られ、国際移住機関(IOM)やMapActionなど現場の団体に渡り、どこへ先に人を送るかの判断に使われた。

10月21日、ポッドキャスト「Satellite Image Deep Learning」の司会者Robin Coleが、HOTのPetya KangalovaとKshitij Raj Sharmaにこの仕組みについて話を聞いた。以下では、インタビューとHOTの公開資料をもとに、ボランティアとAIの役割分担を整理する。
HOTはまずボランティアが作図し、AIで範囲を広げる

HOTは約15年前に設立された非営利団体で、職員は約70人、四つの地域で活動している。これまでの中心は、世界中のボランティアを集め、衛星画像の上で建物や道路をひとつずつなぞってオープンストリートマップ(OpenStreetMap、OSM)に描き込むことだった。
GeoAIとは、人工知能を地図や地理画像に使うことだ。よくある課題は、航空写真の中から屋根や道路、給水タンクをコンピューターに見つけさせることである。
fAIrでは、ボランティアがまず狭い範囲の建物を手でなぞり、そのデータでモデルを微調整して、はるかに広い範囲を読み取らせる。微調整(ファインチューニング)は、家庭料理が得意な料理人が新しい町に引っ越し、地元の人に教わりながら何品か作って、その土地の食材と味を覚えるようなものだ。基盤モデルはすでに各地の家を見てきているので、地元の屋根を数百棟見せれば、トタン屋根の小屋や平らなコンクリート屋根、密集した非公式住宅を見分けやすくなる。
たとえばfAIrのモデル目録には「dinov3s-buildings-finetuned-banepa-v2」があり、ネパールのバネパ(Banepa)の建物データで微調整した地域特化モデルである。基盤モデルと衛星エンベディングの仕組みは、本サイトの〈OlmoEarth v1.3が全球10メートル衛星エンベディングを公開〉で紹介したので、ここではfAIrでの使い方だけを扱う。
fAIrが現在扱うのは、解像度が1メートルより細かい高解像度のカラー(RGB)画像で、主にオープン航空画像プラットフォームOpenAerialMapから取得する。出力は点・線・面のGeoJSONで、そのまま地理情報システム(GIS)ソフトに読み込める。学習用のラベルは三つの経路から集まる。初心者はスマートフォンアプリMapSwipeでスワイプし、経験者はHOTのTasking Managerでなぞり、上級者は自分で描く。
AIの予測は人が確認してから使う

fAIrの資料は、モデルの出力を人が確認すべき「提案」と呼んでいる。確認の方法は三つある。エディター上でひとつずつ採用か却下を決める、現地でField Tasking ManagerやChatMapを使って確かめる、MapSwipeで多くの人に素早く見てもらう、の三つだ。
MapSwipeの使い方は写真の整理に似ている。スマートフォンに衛星画像が1マスずつ表示され、被害が見えればタップし、なければ次へスワイプする。ChatMapはWhatsAppのグループを使い、現地の人が位置情報、写真、動画を送れるようにする。
今回のベネズエラでは、2,681人のMapSwipe参加者が23のプロジェクトで18万件を超える判定を行い、fAIrとMicrosoft AI for Good Labの被害予測を確認した。その結果、カラバジェダ(Caraballeda)、ラ・グアイラ(La Guaira)、カラカスの3都市について、人が検証した被害評価ができた。別に590人のボランティアがOSMで約9.7万棟の建物輪郭を描き、これは対応期間中の13.6万回の編集の一部だった。
被害評価の計算方法は人道データ交換プラットフォーム(HDX)に記されている。AIが災害前後の画像を比べ、結果をH3の六角形グリッドにまとめ、各セルについて複数のボランティアが投票し、過半数が被害ありとしたセルを被害ありとする。HDXは、これらの投票が画像の判読だけに基づき、現地での確認を経ていないことも明記している。

fAIrには、AIが描いた建物をOSMに直接取り込まないという原則もある。HOTは検証済みの成果をHDXとHugging Faceに独立したオープンレイヤーとして公開している。ボランティアの手作業による地図データの蓄積については、本サイトの〈GISで見る臺北の鉄道地下化と市民大道の都市縫合〉で引用した研究が参考になる。
STAC-MLMは各モデルを検索できる目録カードにする

STACは「時空間アセットカタログ」(SpatioTemporal Asset Catalog)の略で、図書館の目録カードのようなものだ。1枚のカードに、衛星画像がどこを、いつ撮ったか、ファイルがどこにあるかを記す。カードの形式がそろっていれば、別々の機関の画像を同じツールで検索できる。
MLMはSTACの「機械学習モデル」(Machine Learning Model)拡張で、同じ目録カードをAIモデルに使う。MLMのカードには、モデルが受け取るバンド数と画像サイズ、必要な前処理、出力するクラス、実行環境、重みファイルの場所、学習に使ったデータが書かれる。薬の添付文書に少し似ていて、受け取った人はメーカーに問い合わせなくても、使い方と使ってはいけない場面がわかる。
MLM拡張は、モントリオールのコンピューター研究センター(CRIM)、Wherobots、Terradue、カナダ天然資源省が共同で管理し、Apache-2.0ライセンスで公開されている。2026年9月23日にv1.6.0が公開され、成熟度は「Candidate」とされている。
fAIrのモデル目録は、基盤モデル、地域特化モデル、データセットの3種類に分かれる。各モデルにはDockerイメージがあり、重みはハッシュ値付きでHugging Faceに置かれ、STACカードにはどの地域で学習したかも記録される。利用者は「このモデルはどこで学んだか」を先に調べてから、自分の町で使うかどうかを決められる。
HOTはモデルを公募し、採用1件につき3,000ドルを支払う
HOTは2026年7月2日に地球観測GeoAIモデルの公募を始め、締め切りは12月31日だ。対象は7分野で、住宅地、重要な公共インフラ、水・衛生(WASH)施設、生計関連施設、交通施設、基本的な公益事業、緊急・公共サービス施設である。
応募するモデルには、モデルカード、公開された重み、STAC-MLMの記述が必要で、fAIrのテストに通る必要がある。インタビューでは、新しい地域で再学習できるよう、各モデルに前処理、推論、微調整、後処理の四つのパイプラインを用意することが挙げられた。採用されたモデルには1件3,000ドルが支払われ、MapSwipeで人が検証したデータセットとフィードバックも利用できる。
現在目録で使えるのは、建物、プール、駐車スペース、固形廃棄物の4種類のモデルだ。樹木、海草、道路などのモデルは、OmdenaとZindiの二つの公開チャレンジで開発が進んでおり、Omdenaには約50人が参加し、Zindiは100人超を見込んでいる。
制約もはっきり書かれている。fAIrが今扱えるのは1メートルより細かいRGB画像だけで、Sentinel-2のような10メートル級の衛星データへの対応は、インタビューによれば来年になる見込みだ。
コロンビアの地震とネパールの洪水でも同じ流れが使われた
2026年8月10日、コロンビア西部のチョコ県(Chocó)を震源とするマグニチュード7.4の地震が起きた。HOTはOSM Colombia、国家災害リスク管理庁(UNGRD)、UN Maps、国連開発計画(UNDP)、地理研究所(IGAC)と優先地域を決めた。9月8日までに450人を超えるボランティアが建物と道路を描き、717人のMapSwipe参加者がビテルボ(Viterbo)とラ・テバイダ(La Tebaida)の二つのプロジェクトで4.9万件を超える判定を行った。ペレイラ(Pereira)周辺の建物と被害の予測はHugging Faceで公開されている。
同じ8月、ネパールのラスワ郡(Rasuwa)で鉄砲水と土石流が起きた。洪水から24時間以内に、HOT、NAXA、ネパール国家防災管理庁(NDRRMA)が最初の作図プロジェクトを立ち上げ、二つのfAIr地域特化モデルがそれぞれ建物の検出と建物ごとの被害評価を担った。経験のある338人がOSMに20,100棟の建物を追加し、4,170人のMapSwipe参加者が九つのプロジェクトで42.3万件を超える検証を行った。
平時の用途も広がっている。インタビューによれば、「Map Your City with fAIr」のコミュニティ公募にはすでに25を超えるプロジェクトがある。ほかにも、インドネシア・バリ島の防災機関と組んだ火山避難ルートと津波リスクの取り組みや、シエラレオネとリベリアで非公式居住地を描く「Know Your City」計画がある。
臺灣が参考にできる方向

- オープンストリートマップ臺灣コミュニティ(OSM Taiwan)には、作図イベントや入門ガイドの積み重ねがある。災害を受けやすい郷鎮で小さな範囲の建物を先に描き、地域特化モデルを微調整するための種データにできる。
- 内政部国土測絵センター(NLSC)のWebマップタイルサービス(WMTS)は、年ごとのオルソ画像(最新は2025年)と「臺灣通用電子地図」の建物枠レイヤーを提供している。前者は画像として、後者は建物ラベルの参考として使える。モデルの学習に使う前に、各レイヤーのライセンスを確認する必要がある。1/1,000地形図の供給については本サイトの〈国土測絵センターが1/1,000地形図と3Dメッシュモデルの供給を開始〉を参照。
- 国家災害防救科技センター(NCDR)の3D災害潜在リスクマップには、浸水、斜面、液状化、津波浸水、火山などのテーマがあり、データのダウンロードもできる。AIが見つけた建物レイヤーをこのハザードマップに重ねれば、検証を急ぐべき地域を先に挙げられ、ボランティアの時間を最も必要な場所に使える。災害時の情報集約には災害情報ネットがある。
- 政府オープンデータプラットフォームの臺灣通用電子地図(例:データセット25108)は、政府データ開放ライセンス第1版で提供されている。今後AIが作る建物や被害のレイヤーも、STAC-MLMにならい、モデル、学習地域、検証方法をデータの説明に明記できる。
- 2025年9月に花蓮県光復郷で馬太鞍渓の堰止湖があふれた後、シビックテックのコミュニティは数日のうちに複数の救援地図を作り、g0vのまとめページにその成果が並んでいる。共通のデータ形式があれば、次に作るツール同士がつながりやすくなる。
GIS研究に使える手法とデータ
- モデル目録とパイプライン:hotosm/fAIr-modelsは基盤モデルと地域特化モデルのSTAC目録を収め、Pythonパッケージfair-py-opsはZenMLで学習と推論の流れをつなぐ。これに沿って自分のモデルを登録できる。
- モデル記述の仕様:STAC MLM拡張のフィールド定義と例、および論文Charette-Migneault et al.(2024)、GeoSearch '24、doi:10.1145/3681769.3698586。
- 評価方法:fAIr評価ガイドは、緩衝帯を設けた空間ブロック分割で学習用とテスト用のデータを分け、背景が大半を占める場合はクラス別の指標を見て、ベクター出力ではオブジェクト単位の適合率・再現率・F1を見るよう勧めている。ピクセル単位のIoU(Intersection over Union、重なり率)が98%近くても、隣り合う10棟が一つの多角形として予測されることがある、という例も挙げている。オブジェクト単位の指標はpolymetricsで計算できる。
- テストデータ:Hugging Faceのhotosm/vhr-building-segmentationは、fAIrが建物モデルのテストに使う高解像度画像データセットである。
- 災害後の被害データ:HDXのベネズエラ地震の建物被害評価(H3グリッド、過半数投票)とHugging Faceのhotosm/venezuela_eq_2026は、CC BY-NC-SA 4.0で非商用に限られる。AIの予測、群衆の判定、USGSの震度分布図の関係を比べるのに使える。
- ツール:MapSwipe、HOT Tasking Manager、OpenAerialMap、fAIrはいずれも登録すればすぐ使える。
出典
- Robin Cole「Building Open GeoAI for Humanitarian Response」Satellite Image Deep Learning、2026-10-21(動画)
- HOT「2026 Venezuela Earthquake Response」
- HOT fAIr資料「Activations」「How it works」「Models」
- HOT「Open Call for Earth Observation GeoAI Models」2026-07-02
- HDX「Venezuela M7.5 Earthquake Building Damage Assessment」
- STAC Extensions「Machine Learning Model (MLM) Extension」v1.6.0、2026-09-23

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